この前、ふとしたきっかけで被写界深度を計算できることが分かって被写体距離や焦点距離や絞りの値を使って計算した結果に感動したのだが、あの計算式の根拠が今一理解できないことに気が付いた。
と言うのは、前回被写界深度を決める「許容錯乱円」という概念の存在を知り、この概念を使えば被写体距離とレンズの焦点距離等のパラメータを使った単純な比例計算で、本に書いてあった被写界深度の計算式を導き出せるもの・・・と軽く考えていたのだが、暇つぶしを兼ねて試に計算してみると、何回やってもあの本に出ていたような式に到達できなかったのだ!
いくら頭の固くなった年寄りでも、あの程度の比例計算なら出来ないことは無さそうだし、自分の考えに何か基本的なことが欠けていたんじゃないかなあ・・・と、このところの蒸し暑さで写真を撮り歩く気も失せて暇を持て余していたこともあり、再度基本から考え直してみることにした。
レンズから見た被写体距離と結像距離の関係
前回は被写体と映像の関係を単純に被写体距離と焦点距離という二つのパラメータ―で考えてしまったが、よく考えると、焦点距離 f と言うのは被写体が無限遠にある時の結像距離で、無限遠でない被写体の結像距離は f ではない。 この認識があいまいだったので被写界深度という概念も頭にうまく描けなかったのだ。
要は焦点距離と言うのは結像距離の一例に過ぎないので、この被写体距離と結像距離という視点でレンズの基本的関係を考えねばならぬと気が付いた。
その関係を表したのが図-1。
直径φのレンズを通して結ばれる映像の位置関係を表すこの図から
h:h’ =a:t ・・・(1)
φ/2:h’ =f:(t-f) ・・・(2)
h=φ/2
∴ a:t=f:(t-f)
a(t-f)=ft
at-af=ft
ft+af=at
となり、 これをatfで割ると
∴ 1/a +1/t=1/f ・・・・(3)
という実にシンプルで面白い式が得られたが、これはレンズが被写体の映像を結ぶ現象に関わるレンズの基本公式と呼ばれるものと分かってびっくり!
ここで被写体aが∞遠になると結像距離tは焦点距離fに等しくなることがうなづけるし、被写界深度を計算する際には、この基本原則の関係に基づいて計算することが不可欠だったのだ。
これに気づかなかったからいくら計算しても求める式は得られなかったのは当然と言えば当然だろう。
再度、被写界深度とは?
焦点距離とは「レンズの中心から無限遠の光を一点に収束する場所までの距離」であることは分かっていても、これまで焦点距離の概念とピントが合う位置との関係があいまいになってこんがらがっていたことは上にも述べた。
実際のカメラの場合を考えると、撮像素子の位置は固定されていて、当然ながら映像は近くの物でも遠くの物でも常にその上に結ばれる。
今のカメラは自動的に狙った被写体にピントが合うようにレンズを伸ばしたり縮めたりしていて、近くの物にピントを合わせるときはレンズを長く伸ばし、遠景を撮る時はレンズを短く縮めている。 そして無限に遠い物の場合の結像距離はレンズの焦点距離と言う事になる。
一方、狙った被写体にピントを合わせて撮像素子上に結像させた時、背景や前景のピントが一見合っているように見える範囲が被写界深度だが、被写体の結像距離の位置に実際は拡散して写る前景や背景の決められた範囲を一定条件で拡大表示した時、人間の目で見てピントが合っているように見える被写体前後の距離と定義されている。
したがって本来被写体の結像位置の前後に結ぶ前景と背景の映像が被写体の結像位置上では拡散映像として写るが、その拡散映像が決められた一定の寸法限界値に収まる距離を計算することで焦点深度を計算し、更にはそれに基づいて計算した被写体前後の距離から被写界深度を計算しよう・・・と頭の整理をしてみた。
ピントが合ったよう見える撮像素子上の一定の限界値は「許容錯乱円」と呼ばれていて、それは印画紙とかディスプレーで実際に見た時にピントが合っていると認識できる限界寸法が選ばれることは前に読んだ本にも書いてあった。 この関係が図-2。
この図で被写体の背景となる点の焦点は撮像面の手前eの所だがピントが合っているとみなすことが出来る直径dの範囲に写るのは被写体の後Dfの所まで、逆に前景部分は撮像面後方e’ に焦点があり、撮像面上はDnの範囲がピントが合っているとみなせることになる。
先ずは焦点深度を求める
結像ポイントの焦点深度 e と e' は
φ : (t-e) = d : e (4)
φ : (t+e') = d : e' (5)
レンズのF値は F = f/φ 故
φ = f/F (6)
(4)式に(6)式を代入しを整理すると
fe/F + de = dt
e = dtF/(f + dF) (7)
同様に(5)式に(6)式を代入し整理すると
fe'/F - de' = dt
e' = dtF/(f - dF) (8)
一方、被写体の位置 a と結像位置の関係は(3)式より、
1/a =( 1/f -1/t)a = 1/(1/f-1/t)=ft/(t-f) (9)
となり、これをtに関して変形すると
t = af/(a-f) (10)
そこで(7)式と(8)式に(10)式を代入すると
e = dFaf/(a-f)(f+dF) (11)
e’ = aFdf/(a-f)(f-dF) (12)
となる。
となる。
前方被写界深度 Dn の誘導
図―2で、前方のピントが合う限界距離Anは(3)式の原理で次のように表すことが出来る。
1/An + 1/(t + e') = 1/f
故に An = f(t+e’)/(t+e’-f)
故に An = f(t+e’)/(t+e’-f)
= f/(1-(f/(t+e’))) (13)
= af2/(f2 + (a – f)dF) (14)
が得られた。
後方被写界深度 Df の誘導
前と同様に後方のピントが合う距離Afは次の式で表せる。
1/Af + 1/(t - e) = 1/f
1/Af + 1/(t - e) = 1/f
故に Af = f(t-e)/(t-e-f)
= f/(1-(f/(t-e)) (16)
(10)式と(11)式を(16)式へ代入し整理すると
= af2/(f2
+fdF - adF)
(17)
となる。
従って 後方被写界深度Dfは
Df = Af-a
(17)式を代入し、整理すると
Df=(a2d F – adfF)/(f2
– adF + fdF) (18)
が得られた。
従っていわゆる被写界深度は Dn + Df と言うことになる。
ところで、前回本に載っていた近似式は
前方被写界深度が
a2d F/(f2
+ ad F)
で、
後方被写界深度が
a2d F/(f2 – ad F)
だった。
しかし、これらの式が(15)式と(18)式とは微妙に違うのは何だろう? 今回の計算では一切省略してないが、どこか省略できる項目があって簡単な近似式にすることが出来るのかもしれないが分からない。
ともかく今回の計算式に問題が有るかどうか、実際に計算して前回の結果と比較検証することにした。
その結果が下の図、図―3は前回の本に載っていた計算式、図―4は今回誘導した計算式での結果である。
こうして比較して見る限り、あまり大きな違いは無いので今回の計算式の誘導方法に問題は無さそうだ・・・と胸をなでおろす。
以上、 1週間近くの頭の体操の結果は何とか形にはなったものの、 計算途中で何度も間違ったり、ちょっと前のことを思い出せなくて右往左往、こんがらがってまた最初からやり直したりで、やはり歳を感ぜざるを得ないことだらけ。
でも頭は使わないと劣化の勢いを止められないというから、出来る出来ないはともかく、考えることで脳の血の巡りを良くして長持ちさせることが一番。
これからも「下手な考え休むに似たり!」等と自らを卑下すことなく、努めて脳トレとしてフリーセルやナンプレにも励むことにしようかなあ・・・と思う。何せ今年は高齢者講習で認知症の検査を受けねばならぬという切迫した状況にあるので・・・(^o^)