カメラいじりが大好きで、日頃の身近な田園散策にはカメラが離せない。 そんなカメラ道楽の年寄だが最近とんと物忘れが激しくなって我ながらもどかしくて仕方がない。
最近は特に野に咲くお馴染みの季節の花の名を思い出せない時がしばしばで、いくら以心伝心の家内だから・・と思っていても「例のあそこにあれが咲いてたぞ!」では話が全く通じない。
それはさておき、先日写真友達が言っていた「・・・180mm、F5で写した割に後ろははっきり写った。10mくらい離れたところから撮ったので相対的な距離差が小さかったためだろうか・・・」と言うのを思い出し、そういえばレンズの焦点距離とか絞りの値とか、被写体までの距離によって背景のボケ具合がいろいろ変るが、それぞれの具体的関係を計算出来ないだろうか?と気になっていた。
感覚的には、近くの物を撮る時はちょっとでも焦点がずれると大きくボケ、遠くの物を撮ると背景も割合はっきり写り、一方、焦点距離の短いレンズの場合は近くから遠くまでピントが合い易く、焦点距離が長いレンズはその範囲が狭いと言う事が分かっている。 そこで、この関係を描いてみたのが図-1だ。
図―1
この図から焦点距離が短いと像が焦点前後の狭い範囲に集まり、長いと広い範囲に分散して像がぼけることが説明できるが、具体的な数値はこれでは分からない。
一方、近くから遠くまでピントを合うように撮りたい時は絞りを大きく絞り、背景をぼかしたい時は出来るだけ絞りを開放に近づけて撮るというのも一般的常識だろう。
だが、実際に撮る段になるとどのレンズでどの位絞って、どれくらいの距離で撮るかを決めるのはほとんど山カンに頼っている。というのも、レンズの焦点距離や絞りや被写体距離の関係が実際はどうなっていてそれが写真にどの程度影響するのか直感的には分からないからだ。
そこで、この3つのパラメータがどういう関係になっているのか計算出来ないかなあ・・・とボケ防止も兼ねて考えてみることにした。
その前に先ずは焦点距離とか絞りの値、そして被写界深度とは一体どういうものか正確に知らなければ話にならないぞ!・・と思い当たり、カメラのレンズの事を書いた本をめくってみた。
焦点距離とは?
そうすると、「焦点距離とは、無限遠の平行光線がレンズで屈折して一点に収束する点からレンズの中心までの距離」と、物理が大好きだった学生時代に習ったことが書いてあったので「そうっだったよなあ・・」と合点する。
これは余談だが、更に読んでいたら「実際のカメラはレンズ取り付け面と撮像素子間の距離は機種毎に一定でキャノンのEOSの場合は44mmに決められている云々」・・と書いてあり、なるほどそう言われればそうだ!とうなづいたものの、と言うことは焦点距離が十数ミリの広角レンズや数百ミリの望遠レンズは撮像素子からの距離から考えるとレンズの中心はカメラ内部だったり、レンズの外側だったりする・・ということになる。
実際のカメラのレンズは複数のレンズを組み合わせたものなので、その中心といっても物理の授業で習ったほど単純なものではなく、一見しただけではどこが中心だか分からないらしい。
ここまで行くと難しくてとても素人が立ち入れる領域では無いが、 実際のレンズ設計にはいろいろ高等技術が駆使されているんだなあ!・・・と感心してしまう。 でもいずれにせよ「焦点距離はレンズの中心から焦点までの距離である」ことには間違いはないようだ。
F値とは?
F値というのはレンズの明るさや光量を調整する絞り具合を表す事は当然誰でも知っていること。
昔、一眼レフのオリンパスOM-1用の焦点距離50mmf:1.4の明るいレンズが欲しくて仕方がなかったが、当時の給料では高価で買えなかった苦い思い出もある。
明るいレンズと言う事は多くの光を取り込める口径の大きなレンズ、その焦点距離をレンズの有効径で割った値がF値だ。
F=焦点距離÷レンズの有効径 (絞りを絞ったときは開口部の直径)
だから50mmの焦点距離で50mmφの有効径のレンズの場合、f:1.0ということになる。この関係をグラフにしてみると図―2のようになった。
図―2
一方絞りはというと、カメラに光りを取り込む量を加減するために範囲を狭めたり広げたりする光量調整装置だ。
前述のレンズの場合、有効径の半分に絞りを絞るということはF:1だったのがF:2になるということになる。
入ってくる光量はというと、その面積に比例して2の二乗分の1になり、ほぼ25パーセントの光量に減ることを意味する。 この関係をグラフにしてみると図-3のような結果、 光量が絞りでこんなに少なくなるとは驚いた!
図―3
被写界深度とは?
被写界深度とは被写体の前後のピントが合う範囲の事であることは分かっていても、具体的にはどの程度のピントの範囲の事なのだろう?
焦点距離の短いレンズは範囲が広く、望遠レンズは範囲が狭くなるのも容易に想像がつくのだが、具体的にどの程度なのかを考えるために被写界深度を判断する基準が知りたいと思いながら本を読んでいたら、遂にその記述を見つけた。
それは、「キャビネ版に引き伸ばした時に眼で見て点と判断できる大きさの撮像素子面上の像の大きさ、 実際には焦点の前後で直径0.035mmの円内に収まる距離」ということだった。
これが分かればレンズの被写界深度を幾何学的に計算できそうだが・・と更に読んでいたら次の式を見つけた。
ここでdが被写界深度の基準になる円の直径、 Fは絞りのF値、aは被写体距離、fは焦点距離だ。
ここまで分かれば後は計算してみるのみ、どんな結果になるのかわくわくする。
通常気にするのは焦点の後側の背景のボケ具合だから、焦点距離の異なるレンズ毎に、被写体距離と絞りによって後側被写界深度がどう変化するのかを計算し、グラフにしたのが図―4から図―7だ。
図―4
図―5
図―6
図―7
この結果を見ると、焦点距離50mm以下とそれ以上のレンズでは被写界深度への絞りの影響は随分違うようで、特に100mmの中望遠レンズ等では1m以内の被写体を撮ろうと思ったら思いっきり絞りを絞っても、cm単位の距離でボケてしまうし、200mm望遠レンズだとmm単位の距離でボケてしまうことがよく分かる。
絞りと言うのはレンズによってこれほど効き方が違うとは思いもよらなかったので驚いた。
このところ毎日のように天気がぐずついて写真を撮りに出歩く気にならなかったので、こんな計算でボケ防止の頭の体操が出来て良かった! ・・・とは言っても、だいぶ物忘れが激しくなってるんだからこれ等の計算が正しいかどうかはあまり当てにはならないし、 嬉しがってる場合じゃないのかも・・・・。